悪性骨腫瘍の情報
骨腫瘍という言葉は、乳癌、肺癌、胃癌などとちがって、普段見聞きしない言葉だと思います。これは文字通り、骨に発生する腫瘍のことで、乳癌などに比べるときわめて発生頻度が低いまれな腫瘍です。骨に発生する原発性悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ、癌(あるいは癌腫)とは区別されますが、悪性腫瘍を意味する(平仮名で書かれる)「がん」の一種であることには間違いありません。つまり転移を起こす可能性がある腫瘍です。一般的に、肉腫の転移は血行性であることがほとんどで、最も多い転移先は肺です。
骨腫瘍には、原発性と続発性があり、原発性には良性と悪性があります。原発性悪性腫瘍には、骨肉腫、ユーイング肉腫、軟骨肉腫などがあります。続発性腫瘍には、骨の周囲に発生した腫瘍が骨に浸潤した侵蝕性腫瘍と、癌などが転移して生じる転移性腫瘍があり、後者が大部分です。
骨腫瘍の診断は、年齢、病歴(症状、経過)、レントゲン写真で行われます。簡便な単純レントゲン写真がもっとも重要で、診断のためだけならばMRIなどのような高額な検査は必要ありません。悪性腫瘍が疑われた場合は、生検による病理診断が行われます。
- 骨肉腫
通常型骨肉腫は10代の思春期に多い代表的な悪性骨腫瘍です。ひざの周囲の大腿骨の下(大腿骨遠位)と脛骨の上(脛骨近位)に約半数が発生し、ついで約15%が肩関節に近い上腕骨の上(上腕骨近位)に発生します。
- ユーイング肉腫
10代を中心に小児から思春期にかけて発生する悪性骨腫瘍で骨肉腫に次いで多いものですが、骨以外の軟部組織に発生することがあります。大腿骨や骨盤に発生することが多いのですが、骨肉腫と違って骨の端ではなく中央に発生しやすい傾向があります。また、肋骨や頭蓋骨など長管骨以外にも発生します。骨肉腫以上に悪性度が高い肉腫ですが、近年の化学療法と局所治療の進歩によって60%以上の治癒が期待できるまでになりました。
- 軟骨肉腫
軟骨肉腫は中年以降に発生する悪性骨腫瘍です。一般に悪性度は低いので手術治療が中心になります。大腿骨、骨盤に多く、上腕骨、肩甲骨、肋骨などにも発生します。
- 脊索腫
脊索腫は仙椎をはじめとする脊椎や頭蓋底に後発する悪性腫瘍です。頻度は極めてまれです。
治療について
- 骨肉腫
悪性度が高く、効果的な化学療法が導入されるようになった1970年代前半までは生存率は10~15%というものでしたが、その後の化学療法の導入と進歩により現在では70%の治癒が期待できるようになりました。また、以前は切断がほとんどでしたが、2001年以降当科で治療した骨肉腫では、非進行例25例のうち切断は2例でした。他の23例は切断を回避し患肢温存手術を行いました。当科での治療は、診断確定後10週間の術前化学療法を行った後に手術を行い、手術後も20~26週間の化学療法を行います。手術後の化学療法の期間は術前化学療法の効果の良し悪しで変更することがあります。
- ユーイング肉腫
治療は骨肉腫と同じように術前化学療法をまず行いますが、使用する薬剤が骨肉腫とは異なっています。また、骨肉腫と異なり放射線治療が有効な腫瘍であるため、手術が困難な部位に発生した場合は放射線治療が行われます。また、手術と放射線を組み合わせることもあります。約25%の患者では初診時に転移がありますので、このような場合は通常の化学療法に加えて造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を追加して治癒の向上を目指しています。
- 軟骨肉腫
大腿骨や上腕骨では広範切除したのち腫瘍用人工関節で再建します。肋骨や肩甲骨では罹患骨の切除のみで必ずしも再建は必要ではありません。骨盤は切除も再建も難しい部位ですが、可能な限り切除し、必要に応じて人工関節を用いて再建を行います。最近は、切除が難しい場所については重粒子線治療を考慮し、適応があれば佐賀県鳥栖市の九州国際重粒子線がん治療センターや兵庫県立粒子線医療センター、千葉県の放射線総合医学研究所重粒子医科学センターに治療を依頼しています。軟骨肉腫の中には脱分化型軟骨肉腫という悪性度の高い腫瘍があります。これに対しては骨肉腫に準じた化学療法を併用することがあります。
- 脊索腫
手術が難しい悪性骨腫瘍の一つでしたが、最近重粒子線治療が有効であることが分かり、積極的に重粒子線治療ができる施設と協力して治療を行っています。
その他にも様々な悪性骨腫瘍がありますが、悪性度が高い悪性線維性組織球腫や平滑筋肉腫などに対しては骨肉腫に準じて化学療法と手術を組み合わせた治療を行っています。一方、低悪性度のものは広範切除と必要に応じて再建を行っています。